過払金返還請求にあたって気をつけたいこと
2007.2.20
司法書士 小口一成
1 過払金に対する利息を含めて請求すべきか?
民法という法律は、お金を受け取る場合に、「法律上の原因が無いことを知りつつ、これを受け取っていた場合には、利息を付けて返さなければならない」と規定しています。
したがって、過払金に利息を付けて返還を求める場合には、少なくとも、相手方である貸金業者が、利息制限法の上限を超える利息を受け取るについて、法律上の原因(根拠といってもいいです)が無いことを知りながら、これを受け取っていたという事実をも、主張する(訴状に書く)必要があります。法律上の原因が無いことを知りながら物やお金を受け取っていた人のことを、法律用語で「悪意(あくい)の受益者(じゅえきしゃ)」といいます。
つまり、訴訟において過払金に利息を付けて請求するためには、相手方が悪意の受益者であることと、それゆえに過払金に利息を付けて返還すべきだということを、主張する(訴状に書く)必要があるわけです。
訴訟では、自分の主張を相手が争ってきた場合には、自分の主張が正しいことを自分が立証しなければならないのが原則です。この原則によれば、相手が悪意の受益者であることを争ってきた場合には、その事実をこちらが立証しなければならないことになります。しかしながら、相手が貸金業者である以上、利息制限法の上限利率を超える利息が法律上無効である(つまり法律上の原因が無い)ということは、当然知っていたはずだとの「推定」が働くことから、悪意ではなかったと主張する貸金業者の側に、悪意ではなかったことを立証させる取り扱いが、現在の裁判所の主流になっています(もちろん全ての裁判官がそのような考え方をするとは限りません)。
現実には、とりあえず、過払金を受け取るについて相手が悪意であったと主張した場合に、これを相手方である貸金業者が覆すことはかなり難しいといえます。
そのようなことから、弁護士や司法書士が訴訟において過払金の返還を請求する際には、過払金に利息を付けて請求するのが一般的になりつつあります。
弁護士や司法書士に依頼せずに自分の力で過払金の返還を請求する際に、利息を付けて請求すべきかについては、以上の点を踏まえた上で、各自が判断すればよいのではないかと思います(利息を付けて請求する場合と、利息を付けずに請求する場合の2種類の訴状のサンプルをつけてありますので、参考にしてください)。
なお、過払金に対する利息の計算方法はやや複雑であるため、パソコンのソフトを使うことをお勧めします。ソフトには様々なものがありますが、私がふだん使用しているソフトは、新潟県の司法書士の外山敦之さんが開発したソフトです。外山さんのホームページから無料でダウンロードすることができます。ホームページアドレスを下記に掲げておきますので、参考にしていただければと思います。ソフトの使用にあたっては、ホームページに記載された注意事項をよくお読みください。
司法書士 外山敦之事務所
http://homepage1.nifty.com/office-toyama/
2 過払金に対する利息の利率は?
放っておいても当然に発生する利息のことを、法定利息といいます(これに対し、当事者間の契約に基づいて発生する利息のことを約定利息といいます)。民法上、法定利息の利率(法定利率)は年5分とされています。
したがって、過払金に利息を付けて請求する場合には、利息を年5分で計算すればよいでしょう。なお、弁護士や司法書士の間では、過払金に対する利息を商法上の法定利率である年6分で計算すべきであるとの考え方もありますが、難しい話しになりますのでここでは省略します。
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(訴状のサンプル1 過払い金に利息を付けずに請求する場合 )
訴 状
平成19年○月○日
○○簡易裁判所 御中
原 告 ○ ○ ○ ○ ㊞
(送達場所)〒 - 長野県諏訪市 ○丁目○番○号
原 告 ○ ○ ○ ○
電 話 0266- -
〒 - 東京都○区○○○丁目○番○号
被 告 ○○株式会社
代表者代表取締役 ○ ○ ○ ○
不当利得返還請求事件
訴訟物の価額 金○○円
ちょう用印紙額 金○○円
第1 請求の趣旨
1 被告は,原告に対し,金○○円およびこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決及び仮執行の宣言を求める。
第2 請求の原因
1 原告は、平成○年○月○日から,貸金業者である被告との間で,継続的に金銭消費貸借取引を行い,金銭の借入れ及び弁済を繰り返してきた。原告被告間の取引経過は、被告作成の「取引明細書」に記載のとおりである(甲第1号証)。
2 被告の原告に対する貸付は,利息制限法を超過するものであるため,同法超過利息の弁済については元本に充当されるべきである。
3 そこで,原告と被告との今日に至るまでの取引経過を利息制限法所定の金利に引き直して利息及び元本に充当した結果,別紙「計算書」のとおり金○○円の過払いが生じており,原告は被告に対し同額の不当利得返還請求権を有することが判明した(甲第2号証)。
4 よって原告は被告に対し,不当利得返還請求権に基づき、過払金○○円と、これに対する訴状送達の日の翌日から支払い済みまでの年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
証拠方法
1 甲1号証 取引明細書(被告作成)
2 甲2号証 計算書(原告作成)
添付書類
1 訴状副本 1通
2 甲号証写し 各1通
3 資格証明書 1通
(訴状のサンプル2 過払い金に利息を付けて請求する場合)
訴 状
平成19年○月○日
○○簡易裁判所 御中
原 告 ○ ○ ○ ○ ㊞
(送達場所)〒 - 長野県諏訪市 ○丁目○番○号
原 告 ○ ○ ○ ○
電 話 0266- -
〒 - 東京都○区○○○丁目○番○号
被 告 ○○株式会社
代表者代表取締役 ○ ○ ○ ○
不当利得返還請求事件
訴訟物の価額 金○○円
ちょう用印紙額 金○○円
第1 請求の趣旨
1 被告は,原告に対し,金○○円及び内金○○円に対する平成○年○月○日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決及び仮執行の宣言を求める。
第2 請求の原因
1 原告は、平成○年○月○日から,貸金業者である被告との間で,継続的に金銭消費貸借取引を行い,金銭の借入れ及び弁済を繰り返してきた。原告被告間の取引経過は、被告作成の「取引明細書」に記載のとおりである(甲第1号証)。
2 被告の原告に対する貸付は,利息制限法を超過するものであるため,同法超過利息の弁済については元本に充当されるべきである。
3 そこで,原告と被告との今日に至るまでの取引経過を利息制限法所定の金利に引き直して利息及び元本に充当した結果,別紙「計算書」のとおり金○○円の過払いが生じており,原告は被告に対し同額の不当利得返還請求権を有することが判明した(甲第2号証)。
4 被告は貸金業者であり、利息制限法等の法令を熟知していることから、上記過払金の利得につき法律上の原因が無いことを知っていた。したがって、被告は原告に対し、上記過払金に利息を付して返還すべきである。
上記過払金に対し民事法定利率年5分の割合による利息を計算した結果は「計算書」(甲第2号証)のとおりであり、最終弁済日たる平成○年○月○日現在、過払金に対してすでに○円の利息が発生している。
5 よって原告は被告に対し,不当利得返還請求権に基づき、過払金及び未払利息の合計額である○○円と、過払金○○円に対する最終弁済日の翌日たる平成○年○月○日から支払い済みまでの年5分の割合による民法第704条所定の利息の支払いを求める。
証拠方法
1 甲1号証 取引明細書(被告作成)
2 甲2号証 計算書(原告作成)
添付書類
1 訴状副本 1通
2 甲号証写し 各1通
3 資格証明書 1通
(つづく)
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