2014/07/29

有限会社の債務整理


有限会社の債務整理~特定調停の活用~
                      諏訪支部 小口一成
第1 事の発端
 事件は2000年の3月、一本の電話から始まった。「日栄から借りているんですが」と心細い声。ついに来たか、と思った。すでに何人かの弁護士に相談を持ち掛けたが、納得のいく結果が得られなかったらしい。私としても初めての経験で自信などかけらも無いが、とにかくやるしかない!電話で聞いただけでも、商工ローンだけでなく、銀行、サラ金なども含めてかなりの負債があるらしい。
 「とにかくすべての借入について、あるだけの資料を持ってきてください。それから会社、個人名義で借りているものをすべて書き出してきてください。あと、手形の耳、当座預金の照合票も用意してきてください。それから詳しい話をお聞きしましょう。」と言って電話を切った。

第2 事情聴取
 事情聴取の結果、以下の事実がわかった。(相談者は資本金300万円の有限会社の社長夫妻である。)
① 会社名義の負債が借入先4社に対し合計4000万(内2社計900万は商工ローンから、他はメインバンク及び国金からのもの)
② 夫である社長個人名義の負債が9社に対し合計1800万(内3社計930万は住宅ローン関係、1社420万は取引先が国金から借入れるにつき保証人となったものが現実化したもの、3社計150万はサラ金から、他は銀行からのもの)
③ 妻名義の負債が5社に対し合計400万(内1社100万が銀行、3社250万が信販会社、1社50万がサラ金)
④ 商工ローンに対しては手形を振出しており、これまでは金利だけを払いながらジャンプを繰り返してきたが、最近は元金の内入れを求められるようになり、次々と到来する期日を控え、資金繰りも限界に来ている。
⑤ 手形の不渡りだけは何としても避けたい。現在は不景気のあおりを受けて仕事(水道管等の設備工事業を営んでいる)の受注が減少気味だが、近々大きな仕事が入るので、ここを乗り切って何とか立て直しをはかりたい。
⑥ 事業継続、今後の返済に向けた真摯な意欲が感じられる。
⑦ 借入の内、家族以外の他人が保証人になっているものはなく、会社の借入につき社長個人、妻が保証人になっている。

第3 手続の選択~特定調停申立~
 2000年2月、特定調停法が施行されたばかりであり、従来の債務弁済協定調停に比して裁判所の権限が強まり、本件のような中小企業の債務整理をも期待できることから、私はこの手続を説明し、相談者と協議の上で特定調停を申し立てることとした。但し、調停はあくまでも話合いの場であり、債権者を従わせる強制力は無いので、うまくいかない場合もあり、その場合は破産も検討しなければならない旨説明し、理解を得た上で方針を決定した。
 すなわち、会社名義の負債4件、社長個人名義の負債6件、妻名義の負債5件について、特定調停を申し立てたのである。なお、住宅ローンについてはすでに抵当権が設定されており、これについては申立をしないこととした。また、社長個人及び妻が連帯保証人となっているものについては、連名で申立をした。

第4 手形の問題~調停前の措置命令~
 調停を進める上でネックになるのが、先述した手形の問題である。商工ローン2社に対しては手形及び先日付小切手を振出していたため、調停の係属中であっても相手方が支払期日に手形あるいは小切手を取立に回してしまうと、これを決済しない限り不渡りを免れることができず、調停を申し立てた意味が無くなってしまう。さらに商工ローンの貸付は利息制限法違反の高利であることから、本来であれば利息制限法に基づいて再計算をし、元本充当を行った上で残債務額を確定しなければならないにもかかわらず、手形の決済という形で違法な金利まで含めて強制的に回収されてしまう。
 したがって、手形あるいは小切手の取立てを禁止することが調停を進める上で必要となるのであるが、これを可能にするのが、民事保全法上の、手形(小切手)取立禁止の仮処分と、民事調停法上の、調停前の措置命令の制度である。
 前者は仮処分に反して手形が取立てに回ってきても、「0号不渡り」事由に該当することとなるのでいわゆる不渡1回にはカウントされないことから、強力な対抗手段であるが、保証金が必要とされることから、保証金を用意できない者は利用を断念せざるを得ない。
 一方後者は措置命令に反して手形が取立てに回ってしまった場合に、上記のように「0号不渡り」事由とはされていないことから、不渡りの危険は残るが、違反した場合には過料に処せられることがあり、保証金も不要であることから、仮処分の保証金が用意できない場合の最後の手段として考えられている。この措置命令は、これまで実務で活用されてこなかったのであるが、以前から、静岡の浜松商工ローン研究会の司法書士達がその活用を検討、提案していたことからヒントを得て、今年の4月、仙台の弁護士が実務において初めて決定を出させたものである。その後、全国各地でこの措置命令が出されるようになり、一定の効果を上げている。
 本件でも、相談者と協議の結果、この措置命令を申し立て、決定を得た(おそらく長野県内の裁判所では初の決定であったと思われる)。これに対する相手方の反応であるが、商工ローン2社の内、日栄は決定に従ったが、シンキが決定に従わず、強引に手形を取立てに回してきた。幸い、何とか決済資金を用意することができたため、不渡りは免れたが、このようなシンキの対応は許し難いものである。しかもこの取立てによって、シンキに対しては過払金が生じることとなったものである。

第5 解決
 本稿の執筆時点では、いまだ事件は終了していないが、申立人の話しでは、何とか解決の目処がつきそうとのことである。
 すなわち、商工ローンのうち日栄については、利息制限法に基づく計算方法を巡って争いがあり、しかも一括でなら応じるが、分割には一切応じない、との姿勢を崩さなかったため、金額については双方の主張する金額の中間を取り、残金一括返済で合意した。不本意ながら、当初の額面金額よりは相当の減額を図ることができた(一括返済の資金を用意することができたのは、申立人にとって幸運なことであった)。
 シンキについては、こちらの計算では70万円ほどの過払いとなっており、依頼者と相談の上、手形取立て禁止の仮処分をかけた上で(なお額面90万円の手形を差し入れてあった)、不当利得返還請求訴訟を提起することも検討したが(実際、仮処分の申立もした)、シンキの側から過払分として15万円(やはり計算方法に違いがある)あまりを返還するとともにすでに差し入れてある手形を返還することで解決したい旨の申出があり、申立人としても大分悩んだようであるが、結局この申し出に応じることとし、仮処分及び調停の申立を取下げる形で決着した。
 それ以外の相手方については、利息制限法に基づく再計算の上、申立人自身が今後の返済計画を立てており、これに大体沿う形で調停が成立しそうとのことである。(但し、国金と銀行については調停を取下げ、任意に話をつけることになりそうである。)

               00/08/19(土)
               長野県司法書士会会報「信濃」掲載

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