2014/07/29

消費者契約法の適用範囲

消費者契約法の適用範囲について
                 長野県司法書士会 小口一成
第1 消費者契約法の適用対象
1 消費者とは
 消費者契約法第2条第1項によれば、「消費者」とは、個人をいうとされ、例外として、個人であっても、事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く、とされる。
 このことから、個人は、「消費者」とされる場合と、そうでない場合があることになる。
2 事業者とは
 一方、「事業者」とは、同条第2項により、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう、とされる。
 このことから、法人その他の団体は無条件で「事業者」であり、個人は、「事業者」である場合と、そうでない場合(すなわち「消費者」である場合)があることになる。
3 消費者契約とは
 右の定義を受けて、同条第3項は、「消費者契約」とは、「消費者」と「事業者」との間で締結される契約をいう、と規定した。
 消費者契約法は、消費者契約を規制の対象とする法律であることから、この「消費者契約」の定義は非常に重要である。

第2 事業性について
 個々の契約が、果たして「消費者契約」に該当するのか否かを判断するには、結局のところ、契約の当事者の一方が「消費者」であり、なおかつ他方が「事業者」であるか否かにかかってくる。
 そうなると、当事者が法人その他の団体である場合はともかく、当事者が個人である場合に、「消費者」なのか「事業者」なのかの判断が、重要となる。その際の判断の基準となるのが、「事業として又は事業のために」という概念である。
 一般的に、「事業として又は事業のために」とは、「契約の当事者となる主体『自らの』事業として、又は『自らの』事業のために」と解されており、「事業」とは、「一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行」であると解されている。個々の事例との関係で、どのように解するべきかについては、第4において述べる。

第3 労働契約との関係
 ところで、消費者契約法第12条によれば、労働契約については、本法の規定を適用しないとされており、これが唯一の適用除外規定である。逆に言うと、労働契約を除く、全ての消費者契約について、本法が適用されることになる。
 労働契約とは、労務の提供に服することを約する契約のうち、当事者の一方が自己の危険と計算によらず他人の指揮命令に服し、他方が自己の危険と計算において自己の指揮命令下におくものであり、労働者保護の要請から、より厳格な法規制がなされているところである。したがって、本条があるからといって、内職商法や、マルチ商法について、消費者契約法の適用を除外するべきではない(もしも右商法において適用除外とされるようなケースが存在するとすれば、そこには労働法による規制が及ぶことになるであろう)。

第4 具体的事例と消費者契約法
1 内職商法
 内職商法は、宛名書き、ホームページ作成などの仕事を斡旋することを名目に、消費者を勧誘しながら、現実には内職を斡旋することなく、消費者から金銭を不当に騙し取ろうとするものである。内職の申込み、或いは材料や機器の購入等の場面において、契約の当事者の一方が事業者であり、他方が消費者であれば、消費者契約として、本法の適用対象となる。
 内職を目的としていることから、「事業として又は事業のために」契約の当事者となる場合にあたるのではないかが問題となるが、事業者側に、そもそも内職を斡旋しようとする意思が欠けていることからすれば、事業目的であることを理由として、消費者契約ではないとする解釈をとるべきではない。
 労働契約であることを理由に適用除外とすべきではないことは、すでに述べたとおりである。
2 マルチ商法
 マルチ商法については、訪問販売法上、連鎖販売取引として規制がなされてはいるが、右規制は、違反した場合の行政罰や刑事罰を定めるのみであって、民事上の効果については規定していないから、消費者契約法の適用が検討される余地がある。
 マルチをめぐる組織にあっては、統括者、勧誘者、その他の者が存在し、訪問販売法上、それぞれ異なる規制がされている。それぞれの立場における個人が事業者なのか、消費者なのかを基準にして、個々の契約が消費者契約であるか否かを判断することになる。その際、事業目的の有無については、消費者保護の趣旨に照らして厳格に解すべきである。
 労働契約であることを理由に適用を除外すべきでないことは、すでに述べたとおりである。
3 商工ローン(根保証)
 昨今の商工ローン問題、とりわけ根保証人の責任を巡っては、契約時における業者の説明義務違反を理由として根保証人の責任を否定し、或いは制限する判例が出されるようになってはきたものの、民法上の錯誤無効や詐欺取消し等の主張・立証は困難を極める。
 そこで、右根保証契約について消費者契約法を適用することができれば、救済されるべき保証人にとっては解決のためのメニューが増えることになる。
 商工ローン業者が事業者であることは言うまでもないので、保証人たる個人が消費者であるか否かが問題となる。保証人個人が、「事業として」保証をなすケースというのは、ごく稀なケースであると思われる。問題は「事業のために」に当たるか否かであるが、この場合の「事業のために」とは、保証人個人の営む「事業」のために、と解するべきであるから(主債務者の営む事業のために保証をする場合はこれに当たらない)、そのようなケースというのも、これまた稀であろう。
 したがって、保証人が個人である限りにおいては、多くの根保証契約について、本法の適用があるものと考えられる。但し、法人成りした会社のように、社会通念上或いは経済取引上、会社と社長個人が同一視されるような会社にあっては、会社の借入について代表取締役個人が保証をなす場合であっても、「自己の事業のために保証をなす場合」と解される余地もあろう。
                 民事法研究会発行「市民と法」掲載

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2014/07/28

消費者契約法の活用

消費者契約法の活用
          消費者問題対策推進委員会(悪徳商法部会)
                               小口一成
1、消費者契約法の成立
 平成10年1月、国民生活審議会消費者政策部会は、「消費者契約法(仮称)の具体的内容について」と題する中間報告をまとめ、公表した。概要は次のとおりであった。
 契約締結過程においては、(1)事業者が、重要な情報を提供せず、又は不実のことを告げ、あるいは威迫・困惑行為を行なった場合に消費者に取消権を与える。(2)消費者が予測できないような契約条項(不意打ち条項)は無効とする。
 契約の内容においては、(1)信義誠実の原則に反し、消費者に不当に不利益な条項(不当条項)は無効とする。(2)不当条項の具体化・明確化を図るため、当然無効とされる条項(ブラック・リスト)と不当と評価された場合にのみ無効とされる条項(グレイ・リスト)を作成し、列挙する。(3)契約条項は明確かつ平易な表現でなければならず、その解釈に疑義が生じた場合は、消費者にとって有利な解釈を優先させる。
 その後、右の中間報告を基に、関係団体から意見を募りつつ検討が進められてきたのであるが、次第にどちらかというと消費者側よりも事業者側の要望が反映される形で報告書の内容は後退を余儀なくされ(例えば不当条項におけるブラック・リスト、グレイ・リストを削除する等)、消費者にとっては実効性に疑問無しとしない内容となった感がある。一方、急激な規制緩和の流れの中で、一日も早い消費者保護立法を求める要請もあったことから、平成12年4月28日、内容としては不十分ながらも、消費者契約法が成立した(なお、本法案の検討過程については月報司法書士328号から333号及び337号における経済企画庁担当者の報告記事を参照されたい)。

2、内容
 本法は、条文数は少ないものの(全12条)、抽象的な表現が多用されており、その解釈は容易ではない。条文そのものの理解は当然のこととして、それをいかに解釈し、個々の具体的な事例にあてはめていくか、ということが今後の関心事となる。
 逐条的な解説は、経済企画庁のホームページ(消費者の窓)等を参照していただくとして(今秋には本法の解説本が出版される予定である。)、ここでは本連載のテーマである悪徳商法の被害回復に関連するであろう内容に絞って取り上げることとする。
(1)適用範囲
 本法第2条は、「消費者」「事業者」につき定義規定を置き、消費者と事業者との間の契約を「消費者契約」と呼ぶこととし、その適用対象を明確にしている。
 悪徳商法においても、消費者対事業者の契約である以上は本法が適用される。但し、個人であっても「事業として又は事業のために」契約の当事者となる場合には消費者ではなく事業者として扱われる(本法第2条)ことから、例えば内職商法やマルチ商法などの被害者が、消費者と言えるのかという問題が無くはないが、消費者保護の目的に照らせばこれらの場合も当然消費者契約として扱うべきであろう。
(2)情報提供義務
 第3条は、契約締結の勧誘に際して、事業者は必要な情報を提供するよう努めなければならないとする。あくまで努力規定であり、これに違反したとしてもただちに私法上の効果は発生しないが、悪徳商法においては勧誘方法が本条違反であることが多く、他の事実とあいまってこれを主張することが、事業者の損害賠償責任を追及する際の根拠となるなど、重要な意義を有する規定である。
(3)誤認による取消し
 民法上第96条の詐欺の要件を満たさなくとも、次の場合には消費者は当該消費者契約の申込み又は承諾の意思表示を取消すことができることとされた(本法第4条第1項、第2項)。
 すなわち、事業者が勧誘をするに際し、①重要事項につき不実のことを告げた②契約の目的となるものに関し、将来における変動が不確実な事項につき断定的な判断を提供した③重要事項につき消費者の利益となる旨を告げながら、故意に不利益となる事実を告げなかったことにより、消費者が誤認して契約を締結した場合には、取消すことができるものとされた。
 民法の詐欺の要件に比して、緩和された面がある(①②については事業者の故意を必要としていないなど)一方、③については事業者の故意を要求し、①③では重要事項(同法第4条第4項に定義規定がある)という絞りをかけるなど、むしろ要件が厳格化された面も否定できない。更に取消すことのできる期間も、追認することができる時から6か月、契約締結の時から5年(民法上はそれぞれ5年、20年)と短縮されている。
 しかし、新たに取消し規定が設けられた意義を前向きにとらえ、我々としてはこの規定を大いに活用すべきである。
(4)困惑による取消し
 民法第96条の強迫とまでは言えない場合であっても、事業者が勧誘をするに際し、①事業者に対し消費者がその住居又は職場から退去してほしい旨の意思を示したにもかかわらず退去しないこと②事業者が勧誘をしている場所から消費者が退去したい旨の意思を示したにもかかわらず退去させないことにより困惑して契約を締結した場合には、消費者はこれを取消すことができるとされた(同法第4条第3項)。
 これにより、訪問販売(キャッチセールス、アポイントメントセールス、催眠商法等を含む)による悪質な勧誘(長時間居座ったり、契約するまで帰らせないなど)への対処メニューが増えたことになる。
 一方で、消費者が「退去してほしい」あるいは「退去したい」旨の意思を示したことが要件となっているため、この点についての立証をどのようにするかといった問題点が残る。また、民法上強迫による取消しは善意の第三者にも対抗できるのである(民法第96条第3項の反対解釈)が、本条の取消しは善意の第三者には対抗できないとされている(第4条第5項)ことに注意が必要である。取消し可能期間については前述の誤認による取消しと同様である。
 なお、第5条において、事業者が第三者に対し、消費者への契約締結の勧誘を依頼し、当該第三者が前述の(3)(4)に該当する行為を行なったときも、同様に消費者は契約を取消すことができるとされ、消費者を保護すべきケースが拡充されている。
(5)不当条項
 第8条ないし第10条では、契約条項に関し、一定の条項を無効とすることで消費者トラブルの防止及び消費者利益の保護を図っている。
 具体的には、事業者の債務不履行や不法行為による損害賠償責任を免除したり、制限(事業者の故意又は重過失による場合に限る)する条項、事業者の瑕疵担保責任(有償契約の場合)を免除する条項、契約解除に伴い消費者が支払うべき違約金の定めを不当に高額なものとする条項、消費者の履行遅滞による遅延損害金の利率を年14・6%を超えるものとする条項を無効とする。
 さらには、第10条において、上記以外でも不当に消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を過重する条項は無効とされた。具体的にどのような条項が第10条によって無効とされるかは、今後の解釈・運用に委ねられることになるが、最終的には裁判官(司法)の判断するところとなる。そのため、我々としては悪徳商法の被害に関する相談に際しては、当然のことながら契約書の控えを持参させて、契約条項について逐一注意を払う必要がある。
 個々の悪徳商法への対処法として本連載で取り上げきたものは、全体から見ればほんの一例に過ぎず、現実には数え切れないほどの手口が存在し、新たな商法が生まれては消え、それに対応する形で消費者被害の実態も日々変化してきている。
 契約内容も、ある程度の類型化は可能であるとしても、基本的には個々の取引に応じて契約内容も異なるものである。そのため、契約条項についてすべて法律で規制することは不可能であると言わざるを得ず、その意味では第10条の一般条項が設けられた意味は大きい。
 したがって最終的な判断者である裁判官に、被害実態をいかにして伝えるか、という点が重要であり、これまで泣き寝入りさせられて来た多くの被害事例を数多く裁判所に提起することにより、不当条項についても消費者の立場に立った解釈がなされるよう、努力していかなければならない。
 なお、不当条項の規制を巡っては個別法(業法)の規定とバッティングする場合にどちらを優先して適用するかが問題となるが、第11条によれば、まず個別法を適用し、個別法に規定が無い場合には消費者契約法が適用され、更に消費者契約法に規定が無い場合に民法・商法が適用されることになる。
 一例を挙げれば、金銭消費貸借上の遅延損害金の利率については、まず個別法である利息制限法並びに出資法において上限は年29・2%とされている(注)から、この範囲では本法第9条第2項の上限規定は適用されないこととなる。

3、今後の課題
 消費者契約法という器はできたが、その器に中身を盛り付けていくのは弁護士、消費生活相談員、そして我々司法書士である。この法律が消費者の武器となるか単なる空文と化すかは専門家の姿勢にかかっているのである。
 司法改革の議論がどのような方向へ進もうとも、経済活動の自由競争化、高度情報化、急激な高齢化は速度を上げて進行し、強者対弱者の構図は益々浮き彫りとなり、それに伴い悪徳商法による消費者被害は加速度的に増大することが予想される。
 本法は平成13年4月1日から施行され、同日以後に締結される契約について適用される。

 (注)出資法の改正(平成12年6月1日施行)により、出資法の上限金利が年29・2%に引き下げられたことに伴い、利息制限法も改正され(同日施行)、損害金については利息の上限である年20%の1・46倍である、年29・2%が上限とされた。

                 00/07/28(金) 月報司法書士掲載

| | コメント (0) | トラックバック (0)