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2014/07/29

ヤミ金融への対処

『ヤミ金融』への対処
                 長野県司法書士会 小口一成
1.はじめに
 10日に1割の利息を取る金融業者を俗に「トイチ」と呼ぶが、トイチどころか10日に5割、6割といった信じられない高金利を貪る業者が存在する。少なくとも筆者の地元である長野県内においては、近年被害が急増している。その多くは東京の金融業者によるものである。具体的には10万円貸して10日ごとに5万円を返済させるというもの(10日で5割)や、5万円貸して10日ごとに3万円を返済させるというもの(10日で6割)である。その多くは東京都知事登録を受けたうえで、融資を勧誘するダイレクトメールを全国の多重債務者(過去に破産をしていたり、債務整理をしたことがあったりで通常のサラ金からは融資が受けられない人)に送りつけ、彼らを食い物にしているのである。このような悪質な業者の営業を行政が放置していることがそもそも問題であるが、このことはひとまず棚上げにし、このような闇の金融業者(以下、「ヤミ金融」と言う)の被害者から相談を受けた場合、どのような対処が考えられるであろうか。本稿で紹介する事案は、筆者にとって初めての経験であり、手探りしながら進めていったものである。
 したがって、全国の経験豊かな同職諸氏にとっては、おそらく釈迦に説法であろうし、これが唯一にして最良の対処法であるとは到底言い難い。しかしながら、少なくとも地方における被害者の支援を通じてヤミ金融の急増に一矢を報いたいとの思いから、身の程をわきまえずに報告させていただく次第である。
 なお、ヤミ金融の中には事業者を対象とし、融資の際に小切手や手形を振出させるもの(システム金融が典型例である)も存在するが、ここで取り上げるのは小切手や手形を利用せずに、サラリーマンや主婦を相手に無担保で数万円~数十万円の小口の融資を行う業者である。

2.事案の概要
 平成12年10月、T市の法律相談会を通じて依頼を受けた。相談者は県内在住、年齢50才前後の独身女性である。まずは事務所に来てもらい、面談の結果、次のような事情が明らかとなった。
 すなわち、過去に2度に渡って東京の整理屋提携弁護士(無論、相談者がそのように話したわけではなく、後から筆者が判断したことだが)に依頼しており、そのことでかえって負債を増大させてしまったこと。したがって現在2人目の提携弁護士に依頼した形になっていること。さらに提携弁護士が受任し、任意整理(その内容はともかく)を経たことにより、信用情報機関に事故情報が登録されており、通常のサラ金業者からは借り入れることができない状態であること。そのような時期に、タイミングよく融資を勧誘するダイレクトメールが届くようになり、生活に困っていたためつい手を出してしまったこと。その結果、半年ほどの間に相次いで東京のヤミ金融6社から融資を受け、瞬く間に返済に行き詰まってしまったこと。

3.解任通知・資料開示請求
 整理屋提携弁護士の特徴及び見分け方については、「クレサラ白書」等に東京の宇都宮健児弁護士が詳述されているので参照されたい。相談者の話しを詳しく聞くうちに、これは提携弁護士に間違いないと確信するに至った。そこでまずは提携弁護士を解任するべく、本人名で内容証明郵便を送ることにした。
 それと同時に、ヤミ金融六社に対しては、とりあえず本人と司法書士の連名で、取引明細を送るよう、通知を出してみることにした。というのもヤミ金融の場合、貸付に際して契約書を交付していないことがほとんどであり、返済は銀行振込み或いは郵便為替等の方法によることから領収書も存在しない。本件でも相談者の所持する資料としてはダイレクトメール、名刺、振込みの控え、電報(「至急連絡されたし」というもの)くらいであった。
 なお、通知は名刺或いはダイレクトメールに記載された住所に宛て、さらに後のことも考えて配達証明付で発送した。配達証明にしたのは、相手方が確かにそこで営業をしている事実を確認したかったことと、後日裁判手続を取る際に訴訟書類の送達の見込みがあることがわかれば、スムーズな手続の進行が期待できるからである。
 提携弁護士事務所及びヤミ金融6社に宛てた通知はいずれも配達証明が得られた。
 その後の相手方の反応であるが、予想に反し、いたって静かなものであった(電話で怒鳴り込んで来ることを覚悟していたのだが、そのようなことはなかった)。
 すなわち提携弁護士事務所からは何の連絡もなく、ヤミ金融からも電話がきたのは3社ほどであったと記憶している。さらにありがたいことには、この通知を出したことにより、本人への請求は以後、ほとんど息を潜めた。
 通知を出して2週間ほどは待っただろうか。こちらの請求に応じて資料を送ってきたのは1社だけであった。しかもその1社というのは、相談者が返済に追われて最後に手を出した業者であり、5万円を借りたきり一度も返済ができていない業者であったから、妙に納得したものである。

4.合意書の作成(元金のみの返済)
 この業者(以下、Aという)については若干面白いやり取りがあったので述べてみる。というのも、当初Aからは、7万5千円を貸し渡したとする借用証書が送られてきたが、相談者の話しでは借りたのは5万円であるということだったので、そのままにしておいた。するとAから電話があり、「書類、送りましたけど」と言うので、「本人は5万円しか借りてないのだから、こんなものを送ってきてもどうしようもない。5万円貸しましたという書類を送るように。」と多少強気に出たところ、数日後、素直に5万円貸し付けたとする計算書を送ってきた。そこでこのAについては、本人の了解のもとに元金5万円のみ返済する代わりに以後一切の請求をしないこととする合意書(案)を作成し、Aに送付したところ、Aからはすぐに署名捺印したものが返送されてきた。さっそく5万円を本人に振り込ませ、Aについては一応の解決を見た(注1)。

5. 少額訴訟の提起
 A以外の5社については、仕方が無いので相談者の記憶と所持する資料(振込書の控え)のみに基づいて、利息制限法に基づく再計算を試みた。その結果、3社についてはすでに過払いとなっており、2社についてはわずかながら未払いが残ることがわかった(注2)。そこで、未払いのある2社についてはとりあえず置いておき(債務者からの資料送付請求にもかかわらず何ら意思表示が無いため、もはや回収の意思が無いものと判断した。その後現在に至るも連絡無し。)、過払いの3社に対しては不当利得の返還を求めるべく、少額訴訟を提起することにした。もっともこの時点では、相手が相手だけに、実際に過払金を取り戻すことを期待したわけではなく、勝訴判決が確定すれば、少なくとも相談者には法律上支払義務の無いことが確認され、生活の安定が得られるであろうことを目論んだに過ぎない。ちなみに管轄の問題について述べると、この手の訴訟は金銭債務=持参債務が原則であることから、義務履行地の裁判所にも管轄が認められ、被告が東京の業者であっても相談者の地元の裁判所に提起することが可能である。この点については裁判所書記官からも聞かれたが、上記のとおりの説明をし、理解をしていただいた。さらに少額訴訟を選択した理由としては、訴額が30万円に満たなかったのは言うまでもないが、相談者自身、精神的に疲弊していたのと日中は仕事があるため何度も裁判所に出頭することは困難であったことが上げられる。
 なお、訴訟提起に先立ち、相手方を確定するため東京都貸金業係に問い合わせたところ、相手方業者はいずれも都知事登録を受けた貸金業者であることがわかった。また、名刺等には「○○コーポレーション」「(株)○○」とあたかも法人であるかのような記載があったが、いずれも法人登記は存在せず、個人業者であった。
 訴訟提起後、裁判所から被告らに訴状が送達されると、面白いことに3社ともに書類作成者である筆者に電話をかけてきた(訴状には書類作成司法書士の氏名と連絡先も記入するようにしている)。さらに驚いたことに、3社ともが口を揃えたように、「お金は返しますので、訴えは取下げてもらいたい」と申し出てきたのである。そこで相談者の了解のもと、相手方には次のように伝えた。
 「(相談者の了解が得られたので)合意書を作って送りますから、署名押印のうえ、返送してください。入金を確認後、訴えは取下げます。」(ずいぶん簡略化して書いたが、実際には被告からは金額を減額してほしいだの半分なら払うだの言われ、私は弁護士ではないので交渉はできないから本人に伝えてから返事する、というようにした。弁護士法違反で足元をすくわれては目的が達せられないことになる。)
 その数日後、2社については署名押印された合意書が返送され、過払金も無事入金されたので訴えを取下げた。残る1社については(ここが過払金額が22万円余りと最も大きかった)どういうわけか口頭弁論期日に至るまで入金が無かった。
 そこで仕方なく相談者と共に口頭弁論期日に出頭した(もちろん私は傍聴人として)。ひょっとして被告が出頭してくるかなと思ったがそんなこともなく、被告欠席のまま弁論が開始され、裁判官から原告に対し、少額訴訟手続の説明と、事案について若干の質問(「被告の営業所は新宿駅の近くだったんですね」というような質問)があっただけで、わずか5分足らずで弁論終結となり、直ちに判決言渡しとなった。
 「主文。被告は原告に対し、金22万7280円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」請求の趣旨記載のとおりの判決であった。
なお、意外なことに後日被告から電話があり、全額払うから振込先を教えてほしいと言うではないか。振込先はすでに指示してあったはずだが、と思いながら再度指示したところ、翌日全額が振込まれ、一見落着を見た。被告が判決に従わない場合は強制執行乃至刑事告訴も検討していたのだが。

6.終わりに
 今回の事案を経験してみて思ったのは、ヤミ金融は刑罰法規に違反した営業をしているという後ろめたさゆえに、裁判手続というものを必要以上に嫌うのではないか、ということである。今回のことで、相談者にはずいぶん感謝されたと思う。
 しかし、たまたま今回の相談者はこれで救われたのかもしれないが、相手方たるヤミ金融はおそらく、たいしたダメージもなく今も営業を続け、相変わらず出資法違反の暴利を貪っていることであろう(その陰でいったいどれだけの人が泣いていることだろう)。
 今回は、単に一債務者のための民事上の手続をしたにすぎないのであり、大局的に見れば、過払金の返還を受ける受けないにかかわらず、行政処分の申立て、刑事告訴まで断固としてやりぬくべきだとの考え方もあろう。しかし、優先順位で考えるならば、たとえ民事上の解決にとどまるとしても、一人でも多くの司法書士がこの問題に取り組むことの重要性を今は訴えたい。

         01/04/27(金)
         日本司法書士会連合会月報「司法書士」掲載

(注1、注2) なお、現在の実務では、ヤミ金融を相手とする交渉においては利息制限法に基づく引き直し計算すらも不要であり、金銭消費貸借契約そのものが公序良俗違反により無効であること、ヤミ金融から交付された金員は不法原因給付に該当するため元金の返還義務も無いことが、この問題に取り組む弁護士、司法書士らの共通認識となっていることに注意されたい。

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