2008/04/17

南の島で愛をさけぶ 62

「この数ヶ月、ずっと考えてきたことなんだけど・・・」
「うん」
「なんというか、あゆちゃんと会って、僕は本当の自分を発見できた気がするんだ」
「ほんとの自分?」
「うん。ほんとの自分。今まで30何年か生きてきて、こんな気持ちになれたのは初めてなんだ。僕は小学生の頃からずっと、女の子と自然に話すことができなかった。いや、今でもそれは治っていない。すぐに顔が赤くなるもんだから、小学校では『赤電話』っていうあだ名で呼ばれてた。なんで電話なのか今でもわからないんだけど。すぐに赤くなるのがたまらなく嫌で、赤くなるまいと意識すればするほど余計に赤くなるものなんだよね」
「わかる気がする」
「そういう体質は、中学に行っても、高校に行っても変わらなかった。当然ながら、女の子と付き合うなんて夢のまた夢だった」
「うん」
「社会人になって、さすがに顔がすぐ赤くなることはなくなったけど、女の人と普通に話せない性格は基本的に変わってないんだ」
「そうかなー。ぜんぜん自然に話せてると思うけど」
「それが不思議なことに、あゆちゃんとは初めて会ったときからぜんぜん自然に話せたから、自分でも驚いてるんだ」
「ぜんぜんそうは見えなかったけどなー」
「だいいち、居酒屋で初対面の女の人に自分から声をかけるなんて、今までの自分からは信じられないよ。あのときはものすごーく緊張したわけだけど・・・」
「確かに、緊張してたよねー、あのときのかずちゃん。フフ、思い出しちゃった」
「あのとき勇気を出して、それまでの自分からは想像できないくらいの勇気を振り絞って、あゆちゃんに話しかけたんだ。あの後あゆちゃんのおかげで、いろいろ話しができて、僕はどんなにか救われたんだ」
「あゆもだよ。あのときはかずちゃんに救われたなー」
「つまりその・・・、あゆちゃんによって僕はすごく救われて、そしてほんとの自分がなんなのか、いまだによくわからないのだけれど、少なくとも今まで生きてきた自分とは異なる、もっと前向きな、自分の利益とかじゃなくて、誰かのためにがんばらなきゃ、みたいな気持ちになれたっていうか・・・。あー、うまく言えないなー!」
「大丈夫、わかるよ」
「ありがとう。うまく言えないんだけど、あゆちゃんと会うまでは感じたことのなかった感情が、自分の中に確かに生まれていて、それがもっともっと大きくなろうとしてるんだ。そして僕はそんな気持ちを、絶対に忘れたくない。これから先何年生きられるかはわからないけれど、これからもずっとずっと、僕はこの気持ちを大切にしながら、強く生きていきたいんだ」
 僕はこのとき、「強く生きたい」という部分をことさらに強調したように思う。
 最初のうち、僕は頭で考えて、言葉を選びながら、冷静に話すよう心がけていた。でも途中から、得体の知れない何かが頭の中に入り込んできて、その何かが勝手に僕の口を割らせようと行動を開始したことにより、しだいに冷静さを失っていった。
(つづく)

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